英単語の中から気になるものをピックアップし、語源を調べてみようと思います。特にTOEICによく出る単語を中心に……

2008年10月25日土曜日

despite 【前】 ……にもかかわらず

ラテン語 despectus (despise:見下す の過去分詞)

受験英語では「……にもかかわらず」といえば、"in spite of" なのだが、TOEICでは突然 "despite" という単語が現れる。少しお堅い言い回しになるので、ビジネス英語には必須というわけだ。

受験慣れ(馴れ)した方ならば "despite = in spite of" と丸暗記してしまえば、別段どうということのない話なのだが、少し突っ込んでいくと両者の関係は意外に複雑だ。

"Despite his importance, Mr. Smith is very friendly."
(スミス氏は、地位が高いにも関わらず、とても親しみやすい。)

など、現代では良い意味でも使われることが多い前置詞であるが、本来の意味を考えると、このような使い方は微妙な嫌味を含んだニュアンスになる。

"despite" は、今ではあまり使われないが、そもそも名詞としてつかうと「侮辱、軽蔑、悪意」などの意味がある。どうやら当初は、"in despite of" (……の侮辱・悪意の中にあっても) というイデオムで使っていたようだ。

つまり、「こんな最悪な状態に追い込まれているにもかかわらずやりぬく」という、周りの悪意に耐えて乗り越えようとしている状態を表していたようだ。

そして、"in despite of" の省略形として、"despite" のみで、「……にもかかわらず」という意味で使われ始める。

"despite" という一つの単語の中に、【前】「……にもかかわらず」と、【名】「悪意」というあまりにも異なった意味が混在するのは不自然だったのだろう。「……にもかかわらず」という前向きな意味で使われ始めた "despite" から「悪意」などの悪い意味は外され、代わりに頭音消失した "spite" を使うようになる。つまり、もともとの "despite" は、本来の意味をなくしてしまい、代わりに "spite" が使われるようになるのだ。

さらに、"spite" も、古い "despite" のときと同じルールで "in spite of" として、「……にもかかわらず」という意味で使われるようになった。したがって、同じ意味で "despite" と "in spite of" が使われるようになった。

そう考えれば、古い "despite" が、少々お堅い言い回しで、"in spite of" が後発の現代的な言い回しであるというのもなんとなく理解できる。

単語: despite, spite

2008年7月4日金曜日

stick 【名】 ステッキ, 杖

古英語 sticca (刺すもの)

"staff" の語源が古英語の杖だったので、当然、"stick" と、語源を同じくするものと思い込んでいたら、「刺すもの」と言う意味の "sticca" が語源のようだ。

他にも杖の意味をもつ単語に "cane", "crook", "wand" などがあるが、どれも語源は "staff" とは違う。

単語: stick, cane, crook, wand

2008年7月3日木曜日

staff 【名】 職員, スタッフ

古英語 stæf (杖, 支えになるもの)

最近、テレビを見ているとこの単語をよく耳にする。耳にする頻度でいうと、"goo" に匹敵するのではないかと思われる。声高らかに「スタッフゥーーー!」と叫ぶのは、マセキ芸能所属のお笑いタレント、狩野英孝氏の持ちネタである。ちなみに、突然、ギョロ目をひん剥いて、下唇を不自然なほどに突き出し、片手の親指を突き出しながら「グゥ~!」と言うのは、吉本興業所属のお笑いタレント、エド・はるみ氏の持ちネタである。

さて、"staff" という単語だが、古英語で「杖」という意味の "stæf" の、「支えになるもの」という意味が転じて、「職員」という意味になっている。

しかし、スタッフが支えているものは何なのだろう?会社であろうか、雇用主であろうか。「杖」というニュアンスから、雇用主に好きなように振り回され、自らをすり減らしながら雇用主を支え、ポキリと折れた瞬間に捨てられる様を連想したのは私だけだろうか。

単語: staff, goo

2008年6月29日日曜日

corporation 【名】法人,会社,団体

ラテン語 corpus(体, かたまり) + -ation 接尾辞

「体(からだ), かたまり」という意味のラテン語 "corpus" の後に、動詞につけて、動作・状態・結果の意味の名詞を作る接尾辞 "-ation" を付けて、「団体」という名詞になった。

ただ、"-ation" は、動詞に付けて名詞を作る接尾辞であるから、"corpus" から、一旦、「法人組織にする, 会社にする」等の意味を持つ動詞 "incorporate" になり、"incorporation" の省略形として "corporation" が生まれたと思われる。

TOEICでは、ビジネス英語の試験であることから、「法人」の意味で文中に登場することがほとんどである。

また、もともとの "corpus" は、「体, かたまり(=body)」の「かたまり」が強調されて「集大成, 集積」等の意味に使われるようになった。

ちなみに、"corporate" は、「法人組織の, 団体の」という意味の形容詞である。

単語: corporation, incorporate, incorporation, corpus, corporate

2008年6月26日木曜日

humoral 【形】 体液性の

humor + -al 接尾辞

ユーモア、こっけい、気まぐれ等の意味で使われる "humor" に、名詞に付けて「…の」「…に関する」の意味の形容詞を作る接尾辞 "-al" を付けて "humoral" という単語を作ると、"humor" は人間を構成する4液体の総称としての意味が強調され「体液性の」という意味になるのはおもしろい。

ちなみに "humor" の形容詞形は、"humorful"

単語: humor, humoral, humorful

2008年6月25日水曜日

humor 【名】ユーモア, こっけい, 気分, 気まぐれ

ラテン語 humor, umor(湿気, 水分, 体液)

"humor" は米国表記。英国表記では "humour" となる。

"humor" とは、もともとラテン語では液体のことであり、4種類の液体のバランスが人間の肉体、精神の状態を決定するとされていたという。

この液体のバランスが崩れるとおかしなことになる。つまり、こっけいな状態になるということらしい。

その4種類の液体を以下に示す。

  1. "blood" 血液 …… 快活で、楽観的になる。
  2. "phlegm" 粘液 …… 無邪気」になる。
  3. "choler" 胆汁 …… 怒りっぽくなる。
  4. "melancholy" 黒胆汁 …… 憂鬱になる。

単語: humor, blood, phlegm, choler, melancholy

2008年3月8日土曜日

advise 【動】 忠告する,助言する

ラテン語 advisare (たびたび見る)

TOEICでは "advice" と混同させるためによく出題される "advise" である。"advice" はアドバイスそのものを指す名詞、"advise" は「忠告する」という動詞だ。

語源は「たびたび見る」と言う意味のラテン語。的確な助言を与えるためにはよく見なけらばならないということか。つまり、普段からよく気にかけているということなのだろう。確かに、普段あまり会わない人から突然アドバイスされてもピンとこないものだ。

ちなみに、アドバイザーは「アドバイスする - 人」だから、動詞の"advise" に、人を表す接尾辞 "-er" を付けて、"adviser" となる。また、同じく人を表す接尾辞 "-or" を用いた "advisor" も同じ意味だが、こちらは主にアメリカで使われているようだ。

単語: advise, advice, adviser,advisor

2008年3月4日火曜日

beside 【前】 …のそばに

古英語 bi sīdan (by side)

"besides" の基になった "beside" の語源は極めて単純だ。古英語で「そばに」という意味の記述が現代語になりつつ、音にあわせて変化しながら合成された。つまり、"beside" という単語を作ったほうがいいくらい "by" と "side" はセットで使われたのだろう。

単語: beside

2008年3月3日月曜日

besides 【前】 …のほかに,…以外に

beside + -s 副詞語尾

「…のそばに」という意味の前置詞 "beside" の最後に、"s" が付いただけで意味が変わってしまっている。TOEICの文法問題でこの2つが選択肢になることも多い。混乱しやすい単語だが、どうやら、もともとは "beside" だけで両方の意味に使われていたようだ。

前置詞 "beside" には、もともと「…のそばに」という意味と「…のほかに」という意味の両方が含まれていた。この前置詞を副詞として使うために "besides" という単語が生まれた。

副詞として使う場合、「…のそばに」とう意味よりも「…のほかに」の意味で使うことが圧倒的に多かったのだろう。いつしか、"besides" は、"beside" から分かれて、「…ほかに」の意味で使われるようになり、さらに副詞の "besides" から、前置詞の "besides" が派生し、"beside" 「…のそばに」と、使い分けられるようになったらしい。

確かに、日本語で考えても「AのそばにBがある」ということは「Aがあって、AのほかにBある」ということだと取れなくもない。ただ、状況は同じでも、伝えたい内容には大きな隔たりがあり、これらを同じ単語で伝えるのは日本語で考えている限り、かなり難しい。日本語で考えて難しいものは、英語で考えても難しいということだろうか。結局、別の単語が割り振られることになってしまったというわけだ。

単語: besides, beside

2008年3月1日土曜日

teach 【動】 教える

古英語 tæcan(指し示す,明らかにする)

"document" の項で少し取り上げた "teach" 、語源を見てみると、やはり「指し示す」「明らかにする」などの意味を示す古英語から変化したものであった。"teach" とは、わからないことや隠れていることを指し示して見せてやることなのである。「知らせる」というニュアンスは含まれていると考えていいのではないだろうか。"teach" の初出は古く、「ジーニアス英和大辞典」(大修館書店)によると12世紀以前である。

この "teach" に、動詞について「…する人」という名詞を作る接尾辞 "-er" をつけたものが "teacher" 「先生」である。"teacher" の初出は14世紀になる。この200年の差は何なのだろう。察するに、14世紀までは "teach" する専門の人がいなかったので、"teacher" という概念自体が無かったのではないだろうか。

単語: teach, teacher

doctor 【名】 博士,医者,医師

doc- 教える + -or 人を表す接尾辞

"doc-" で始まる単語で思いつくものが "doctor" 。これも、語源を知れば納得する。「教える」に "-or" を付けて人にしているのだ。自らの豊富な知識を「教える人」が "doctor" というわけだ。初出は14世紀。18世紀には「治療する」とか「医者を開業する」という動詞としても使われるようになった。"document" が動詞として使われるようになった時期も18世紀である。18世紀に何かブームがあったのだろうか。

さて、確かに医者は患者を診察し、病状や治療法を教えてくれる。

医者といえば、1996年にアメリカのドラマ「ER緊急救命室(Emergency Room)」がNHKで放送されて話題になった。日本で放送されるぐらいだから当然といえば当然なのだが、本国アメリカでは1994年にNBCで放送が始まってから、かなりのブームを巻き起こしたようで、その後医者や病院を題材にしたドラマが雨後の筍のように現れたと聞く。

「ER」は、原作が映画「ジュラシックパーク(Jurassic Park)」や「ディスクロージャー(Disclosure)」で有名なマイケル・クライトン(Michael John Crichton)の「五人のカルテ(Five Patients)」ということだから、もともと話題性が高かったと思われる。とはいえ、1994年に始まって2008年の今も尚ブームが続いているのだから、よほど内容が面白くないとこうはいかないはずだ。

日本でブームを起こした医者のドラマといえば「白い巨塔」だろう。1963年から1965年まで雑誌「サンデー毎日」に連載された山崎豊子の長編小説が原作だ。

1965年に田宮二郎主演でラジオドラマ化、1966年に田宮二郎主演で映画化、翌年に佐藤慶主演でテレビドラマ化されている。但し、多くの日本人の記憶に残っているのは、その翌年1968年に三度目となる田宮二郎主演でテレビドラマ化された作品ではないだろうか。ドラマの放映が残り2話となっていた1978年12月28日に、主演の田宮二郎が猟銃自殺をしたことで、かなり強烈な印象が残っている。

その後も1990年と2003年に、村上弘明、唐沢寿明の主演で、テレビドラマ化されている。それぞれ放送時はかなりの話題になったが、白い巨塔といえば田宮二郎のイメージは変わらない。

また、1993年に放送された「振り返れば奴がいる」というドラマも医者を主人公にしており、放送時は人気があった。

これら、医者が主人公のドラマが話題になる原因の多くが、一般の患者が普段接することのない医者や病院の裏の世界を垣間見れることにある。単に病気や怪我の症状や治療法を「教える人」ではなく、多忙な医療現場で医療ミスを起こしたり、金や権力にしがみつく医者などを生々しく描いている作品に人気が集中する。14世紀の昔から知っている "doctor" ではなく、20世紀、21世紀の本音の "doctor" を見たいということだろうか。

ちなみに、学位としての「博士号」は「…の職務」という意味を表す接尾辞 "-ate" が付いた "doctorate" である。博士号を取得している人を指して、「彼はドクターだよ」というのは正しいが、「彼はドクターを持っているらしいよ」などと言うのは厳密には間違っている。ましてや英語で、"He has a doctor." などと言ってしまってはいけない。お医者さんを持ち上げているか、お抱え医師でも雇っているかのような表現になってしまう。もちろん、相手の方が話の流れで察してくれるだろうとは思うが。

単語: doctor, doctorate

2008年2月29日金曜日

document 【名】 文書,ドキュメント

doc- 教える + -ment 名詞化接尾辞

最近は、ほとんど外来語として日本語化したのではないかと思われるほど、日本語の会話の中で普通に使われる単語 "document" 。特にビジネス用語としては、普段の会話に当たり前のように「ドキュメント」というカタカナ語で登場する。語源は「教える」と言う意味の "doc-" が語幹となり、動詞や形容詞を名詞化する接尾辞 "-ment" の合成で出来ている。つまり、文章とは「教えるもの」というわけだ。「ジーニアス英和大辞典」(大修館書店)によると、英語として使われ始めたのは15世紀。名詞のほかに「…を記録する」とか「…に(証拠などの)文章を添付する」という意味の動詞使われることもあるが、これは18世紀以降の用法で比較的新しい。

「語源中心英単語辞典」(南雲堂)によると、"doc-" は、ラテン語の "docere" (= to teach) に由来している。"teach" というと、日本語の「教える」と同じように、学校の先生が生徒に教えるとか、師匠が弟子に教えるというような、上から下へという流れが強いように感じる。「ロングマン現代英英辞典」(桐原書店)で "teach" の項を見ると、いわゆる「教える」と言う意味のほかに、"to show (someone) the bad results of doing something, so that they will not do again" (失敗を繰り返さない為に、悪い結果を示す)というような、教室で先生が失敗したときにする言い訳のような説明も載っているが、やはり「教えてやる」というような上から目線は外せない。

しかし、この "doc-" は日本語で考えるならば、「伝える」とか「知らせる」というようなニュアンスを含めているように思う。そう考えると、"document" のイメージとピッタリと合ってくるのだ。テレビやラジオなどの情報を伝える媒体が全くなかった15世紀、紙に書かれた "document" こそが、誰かに情報を「教える」、「伝える」、「知らせる」手段だったというわけだ。

テレビやラジオという新しい情報媒体が生まれたにも関わらず、紙に書かれた "document" はしぶとく生き残り、コンピュータの登場により電子化された "document" として、今やインターネットを通じてテレビやラジオを凌駕しようとしているところがおもしろい。

単語: document

参考文献

TOEICテスト はじめて覚える英単語と英熟語」(ダイヤモンド社)
宮野智靖 監修, 甲斐幸治 著

語源中心英単語辞典」(南雲堂)
田代正雄 著

ジーニアス英和大辞典」(大修館書店)[CASIO XD-SW9400]

ロングマン現代英英辞典(ハンディ版)」(桐原書店)

短期集中講座! TOEIC TEST 英文法」(明日香出版社)
柴山かつの 著

TOEICテスト新公式問題集 Vol.2」(TOEIC運営委員会)
Education Testing Service 著

新TOEICテスト直前の技術」(アルク)
ロバート・ヒルキ,ポール・ワーデン,ヒロ前田 共著

「ウィキペディア フリー百科事典」(http://ja.wikipedia.org/

ラテン語-日本語-派生英語辞典」(国際語学社)
山中 元 編著